東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2787号 判決 1976年5月24日
控訴人 横山マスエこと 岡野マスエ
被控訴人 西武鉄道株式会社
右代表者代表取締役 堤義明
右訴訟代理人弁護士 遠藤和夫
辻本年男
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の申請を棄却する。控訴費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出及び援用は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。
理由
≪証拠省略≫によると、次のとおり一応認めることができる。
岡部為三は、昭和二六年一〇月二四日に亡山本茂策とともに両名共有にかかる本件建物を川島喜晴に売り渡しておきながら、自己の単独所有を装って昭和三〇年四月五日にこれを師岡舛太郎に売り渡し、師岡は昭和三二年一二月二日にこれを控訴人、横山正義、岡野博通、岡野英治の四名に売り渡した。川島は昭和三三年八月一二日付をもって未登記であった本件建物につき売主岡部、亡山本を代位して所有権保存登記を経由したうえ、東京地方裁判所八王子支部の同日付処分禁止の仮処分命令を執行し、その旨の登記(甲区二番)を経由したが、他方控訴人もまた本件建物につき同年一〇月二七日付をもって亡山本、岡部の両名を債務者とする同一内容の処分禁止の仮処分命令すなわち本件仮処分を得てこれを執行し、その旨の登記(甲区三番)を経由した。ところが、本案訴訟の経過は、川島が亡山本及び岡部に対する本件建物の所有権移転登記請求訴訟を提起して(同支部昭和三三年(ワ)第三九七号事件昭和四〇年一一月二四日判決言渡)勝訴の確定判決を得て本件建物につき昭和四一年一月一八日受付第六号をもって亡山本の訴訟承継人である山本大和ほか九名及び岡部の川島に対する昭和二六年一〇月二四日売買を原因とする所有権移転登記(甲区五番)を経由し、控訴人ほか三名が師岡に対し右売買を原因として本件建物の所有権移転登記手続を求め、亡山本及び岡部に対し右登記請求権をもって師岡に代位して同人の亡山本及び岡部に対する本件建物の所有権移転登記手続を求める訴訟を提起して(同支部昭和三三年(ワ)第五三一号事件)争い、前者(師岡に対する請求)につき勝訴判決(東京高等裁判所昭和四五年(ネ)第一五八号事件昭和四六年一〇月二八日言渡)が確定し、後者(亡山本及び岡部に対する請求)につき敗訴判決が上告棄却(最高裁判所昭和四七年(オ)第一六一号事件昭和四七年一〇月三一日言渡)により確定した。そして、被控訴人は本件建物につき昭和四八年三月二七日受付第三八二号をもって川島の被控訴人に対する昭和四一年三月四日無償譲渡を原因とする所有権移転登記(甲区六番)を経由した。
かように疎明されるから、右の事実関係のもとにおいては、被控訴人は、控訴人のためにされた仮処分の登記(甲区三番)の存在並びに控訴人ほか三名の師岡に対する本件建物の所有権移転登記請求訴訟における前記勝訴判決の確定にかかわらず、本件建物の右所有権取得をもって控訴人にも対抗することができるものと解すべきである。
そうすると、本件建物について、甲区五番及び六番の各登記に表象される叙上の所有権変動は、甲区三番の登記にかかる本件仮処分命令の事後の経過として、民訴法七五六条に準用される七四七条一項の事情の変更に該当するものと解するのが相当である。被控訴人の本件申請は正当として認容すべきものである。
よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、同法三八四条、九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡田辰雄 裁判官 中川幹郎 裁判官小林定人は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 岡田辰雄)